モービル天ぷら(モービルてんぷら)は、第二次世界大戦(太平洋戦争)終戦後の沖縄県で食べられた、エンジンオイル(モービル油、モビール油)で揚げた天ぷらのこと。モビール天ぷらともいう。
概要
第二次世界大戦後の沖縄では、天ぷらを揚げる際に食用油の代用として機械用減摩油が用いられた。火にかけた油は強烈な臭いを放ち黒煙を上げたというが、最高のご馳走であったとされ、人気があった。盆・正月、結婚式などでも食されたという。
オイルは米軍キャンプでの労役中の戦果品(盗品)が使用された。天ぷらには十番オイルと呼ばれる粘度の低いもの(ミッションやギヤ油)が適し、通常のエンジンオイル(三十番)は向かなかった。当時使われていたモービル油は、真っ黒なため「クラシミアンダ」とも呼ばれた。
この天ぷらを食べた後は、吐き気、腹痛、下痢などの症状が出た。尻からぬるぬると未消化の油が流れ出て服の外にまで浸透したとの複数の証言があり、沖縄の一定の年齢以上の人間であれば、ほとんどが経験したといわれることがある。死者も出ており、極めて危険な食行為である。
石油由来の鉱物油の場合、消化以前に咀嚼や嚥下自体が困難であり、もし無理に飲み込んだ場合、中枢神経や心機能への悪影響が考えられる。
沖縄以外での類似例
戦前から戦中にかけて航空機用エンジンを開発していた中島飛行機の実験室のエンジニアにはエンジンオイル(ひまし油)で揚げたサツマイモを食べる習わしがあった。航空用発動機のテストを行うモータリング室には油煙が充満し、配属された新人は下痢に悩まされる。天ぷらを食べるとその日は猛烈な下痢に襲われるが、以後困らなくなったという。
脚注
参考文献
- 沖縄タイムス社 編『庶民がつづる沖縄戦後生活史』〔第3章 モービルてんぷら 32-37頁〕沖縄タイムス社、1998、ISBN 4871271242
- 奥野修司『ナツコ 沖縄密貿易の女王』文藝春秋、2005、ISBN 4163669205
- 沖縄オバァ研究会 編『続・沖縄オバァ烈伝 オバァの喝!』双葉社、2001、ISBN 4575292001
- 沖縄大百科事典刊行事務局 編『沖縄大百科事典 下巻』沖縄タイムス社、1983年5月30日。NDLJP:12193528。
- 佐野眞一『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』集英社、2008、ISBN 9784797671858
- 中川良一,水谷総太郎『中島飛行機エンジン史 : 若い技術者集団の活躍』酣灯社、1985年5月。NDLJP:12683708。
関連項目
- アメリカ合衆国による沖縄統治
- 食糧危機
- ソテツ地獄
- モービル (ブランド)
- ひまし油
- ハマグリのガソリン焼き
- バラムツ
- アブラソコムツ


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